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様々なエンタメ作品に対する個人的な感想

映画『TALK TO ME トーク・トゥ・ミー』を観ました。

鑑賞日:2024/1/13

作品名:TALK TO ME トーク・トゥ・ミー

 

※ネタバレをいとわない形で書いています。未鑑賞の方や、ネタバレを一切踏みたくないという方が閲覧する場合はご注意下さい。

あらすじ

母を亡くした高校生のミアは、気晴らしに仲間とSNSで話題の「#90秒憑依チャレンジ」に参加してみる。
ミアたちはそのスリルと強烈な快感にのめり込み、チャレンジを繰り返していくが、仲間の1人にミアの母の霊が憑依し——。

引用:下記サイトより

gaga.ne.jp

 

概要

映画館(字幕)にて鑑賞。

全編1時間半ぐらい(95分)と比較的短め。PG12。

スナック感覚で観ることが出来るポップな(?)ホラー映画でした。

 

『ミッドサマー』以降、広告で「A24」を前面に押し出すようになったこともあり、「A24」と聞いただけで必要以上に期待してしまう方も多いかもしれません。

しかし、この作品は『ミッドサマー』のような、グロテスク、かつ不気味、かつ言葉にしがたい気持ち悪さ、というような一種の衝撃的な独自性を持ったホラー映画ではありません。後味の悪さ、グロテスクさは確かにありますが、いろんな意味でそこまでショッキングな作品ではなかったと思います。

 

思い切ったカメラワークやシーンづくりといった演出面は特徴的でしたが、主立った面白さが感じられるのはその部分だけでした。ストーリー的には、「まとまっている」という印象ですが、この話でどういう気持ちにさせたかったんだろうと思ってしまいました。私の場合、解釈に戸惑いが出てしまったので、"最高にブッ飛べる"という感じではありませんでした。

 

感想

「全ては幽霊のせいさ!」という視点だけで観ると

終始シンプルに、「幽霊怖い」「安易に危険なことに手を出すな」で済ませることが出来るんじゃないかと思います。

「特級呪物の"手"を使って憑依チャレンジして遊んでたら親友の弟が大変な目に遭っちゃった!ヤバ!でも何とかしなくっちゃ!私のせいだし!(死んだママにも会いたいし)」

とまあ、流れるようにミアは嫌われ者ムーブをしていくわけですが、「何とかしなくっちゃ!」という行動をするうちに、ミアには自殺した母親の(ふりをした)幽霊が付きまとうようになります。幽霊は、父から聞かされた母の遺言を嘘だと信じ込ませたり、重症のライリーを救う(=殺す)ように命じたりします。全ては偽母親の幽霊や、ライリーに取り憑いたままの幽霊達が画策したこと、と捉えるのが最もシンプルな解釈だと思います。

 

しかし、狙ってなのか、私が勝手に受信してしまっただけなのか、以下の視点を交えると、このストーリーの解釈は単なるホラーとは違う複雑さが出てきます。

 

「この子、症状で幽霊を見ているだけでは?」という視点

降霊ゲームまでは本当に幽霊の仕業で、ライリーが入院した後から先、ミアの身に起こったことは症状なのではないか、という視点です。

 

ミアには、「母親が自殺した一件があって以来、鬱病を患っている」という設定があります。この設定が、良くも悪くも作品の解釈に複雑さを生んでいるように思います。

ミアは自分の身勝手のせいで友人たちを苦しめることになりました。結果、彼女は精神的に追い詰められ、寛解していた鬱病が再発、かつ統合失調症まで発症してしまったのではないでしょうか。

というのも、ライリーが入院した後から先、幽霊を見た人間が一人もいません。ミアが主張していることを誰も証明出来なかった。というか、みんなミアと関わりたくなくなってしまったので、証明する気にもならなかったのだと思います。(彼女を孤立させることこそが幽霊の作戦とも捉えられますが)

 

ライリーが風呂場で身体を洗ってもらっている時、壁に頭を打ち付け始めたことに関しては幽霊の仕業なのでしょうが、ミアが思い込んでいる"救い"(囚われた魂を解放するためには死を与えるしかない)については妄想だったのではないでしょうか。作中で、「取り憑かれても、時間経過で霊の力は弱まる」と説明されていましたし、実際ライリーは回復し始めていました。その時点でミアがこれ以上何かをする必要はないわけで。にもかかわらず、それ以降も「私が救ってあげなくちゃ(殺してあげなくちゃ)」と思い込んでいました。

 

以上のことから、この作品は「オカルトと症状が入り混じった映画」という見方も出来るのではないでしょうか。

私としては、どちらなのかハッキリしてくれたほうがスッキリするし、そのほうが恐怖だけに集中できるんだけどな、という気持ちでした。

 

ミアの最期について

ミアは結局ひとりぼっちで幽霊になり、別の浅慮な若者たちのおもちゃ行きという、なんとも言えない結末。

 

彼女は自ら死を選んだのか、あるいは偽母親の霊に操られたのか、はたまたジェイドに突き飛ばされたのか、それとも全く別の要因か。真相は不明ですが、私の中では「自ら死を選んだ」だと思っています。

 

ミアはライリーに死を与えることで、辺獄に囚われ苦しんでいるライリーの魂を救えると信じ込んでいました。今まさにライリーを救おう(殺そう)という時、偽母親の霊は「これで彼は救われる、あとは私が守る、彼は私の永遠になる」というようなことを言います。もし私がミアの立場で、死んだ母親のそんな言葉を聞いたとしたら、「そんなのズルい、私がママに守られたい、私がママの永遠になりたい」と願うと思います。ライリーの魂のことなど忘れ、衝動的に「自分が救われたい」とも思うでしょう。なので、ミアは自分から死を選んだのではないか、というのが私の結論です。

 

ドラッグの蔓延とSNSを背景に制作されたというこの映画。

「友達なら止めるべきだった」という一言には重みがありました。

 

以上、映画『TALK TO ME トーク・トゥ・ミー』の感想でした。