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様々なエンタメ作品に対する個人的な感想

映画『ブラック・フォン』を観ました。

グラバーのイメージ


作品名:ブラック・フォン

鑑賞した日:2022/7/9

 

前半は極力ネタバレ無し、後半はネタバレ有りで書いていきます。

※前情報ゼロで作品を楽しみたい方は、ここから先は読まないようにして下さい。

あらすじ

舞台は70年代アメリカ。コロラド州のとある町では子供の失踪事件が相次いでいた。主人公の気弱な少年フィニーはある日、マジシャンだという男にマジックを見せると唆され、黒いバンに無理やり押し込まれてしまう。

気がつくとフィニーは地下室に閉じ込められていた。マジシャンの男は相次ぐ子供失踪事件の犯人、連続誘拐魔”グラバー”だったのだ。

部屋の中には鍵のかかった扉、鉄格子の窓、そして断線した黒電話。

 

ジリリリリリリリリ

 

鳴るはずのない電話が鳴り響く。

受話器を取ると、聞こえてきたのは死者たちからのメッセージだった。

 

一方、フィニーの失踪後、彼の行方を示唆するような夢を見た妹のグウェン。グウェンには不思議な夢を見る力があった。酒浸りの父親は信じようとしないけれど、グウェンはこの不思議な夢の力を通じて兄の行方を追うことにする。

 

果たして、フィニーはグラバーから逃れ無事に脱出することが出来るのか。

グウェンは兄を見つけ出し、救うことが出来るのか。

仮面の男が不気味に笑う。

 

詳しい情報は公式HPをご確認ください。

www.universalpictures.jp

 

感想

全体的に「よく出来ているなぁ」という印象ですが、期待を超えるほどの面白さではなかったかな、というのが正直な感想です。それでも好きな部分はたくさん見つけることが出来た作品でした。

以下に詳細をまとめます。

 

綺麗にパズル組み上がったなぁ

物語の構造が整っていて、パズルのピースがカチッとハマった瞬間に、おおー! となるタイプの映画です。ただ、この手の作品をよく観ている人だったり、ビデオゲーム好きな人だったりすると、もう少し盛り上がりが欲しいと感じると思います。

とはいえ、全く面白くないというわけではなく、物語の仕掛けはもちろん、子供同士の友情、兄妹の絆、不思議な能力、キャラクターデザインが特徴的な誘拐犯など、私にとっては好きな部分がたくさん見つけられる作品でした。

(「ものすごく面白かった」という誰かの感想や、余計な情報を入れてしまったこともハードルが上がってしまった原因の一つかもしれません)

 

スタンド・バイ・ミー』と『IT/イット』の雰囲気

少年期独特のなんとも言えない郷愁と、誘拐犯や幽霊、怪奇現象に対する恐怖が掛け合わさったような雰囲気でした。私はこの要素を組み合わせたタイプの作品はあまり観たことがなかったので、そこはかなり気に入っています。

原作者はジョー・ヒルという方で、スティーブン・キングの息子さんだそうです。映画を観る限り、完全に遺伝子を受け継いでいるのを感じます。

 

ホラーとしてはビックリ系

ビビりなので、サイコスリラーを劇場で観るのは不安でしたが、そこまで怖さはありませんでした。大きな音でビクッ、ショッキングな映像でヒッ、てなるタイプのホラーです。そのせいもあってか、サイコスリラーを謳うにはちょっと物足りなさがありました。私の勝手なイメージですが、「サイコスリラー」と言われると、犯人の異常性や残虐性、それに追い詰められていく被害者の心情や状況などがメインになると思っています。『ブラック・フォン』では、どちらかというと子供たちの頑張りがメインに感じられ、あまり犯人どうこうという感じではなかったです。なので、サイコ感を求めて観に行くと味がしづらいかもしれません。

どうでもいいけど、ポスターの「サイコ」と「スリラー」の間に「・」が打ってあることに違和感があるのは私だけですか。そうですか。

 

 

ここまでは極力ネタバレを避けながら、感想をまとめました。ここから先はネタバレを含めながら感想をまとめていきますので、まだ観ていない、知りたくない、という方は、以下は読まずに作品をお楽しみ下さい。

 

 

※ここから先はネタバレを含みます※

 

 

 

 

感想の追記

言ってしまえば脱出ゲーム

床に掘った穴、千切れた長い電話ケーブル、外れてしまった鉄格子、ダイヤル錠の番号、冷凍庫の生肉、そして土を詰めた受話器。最終的に全部使ってグラバーを倒し脱出します。

作品内に散りばめられた要素を巧く回収しながら敵を倒して脱出するという構造はビデオゲームにはよくあることで、そういったものに馴染みがあると、「めっちゃ面白かった!」とはなりにくいです。「なるほど、よく出来てるなぁ!」とは思えるのだけれど。慣れてしまうのも考えものです。もちろん物語の本質は仕掛けだけではないとは思いますが。

 

「幽霊=怖いもの」ではない

「幽霊=怖いもの」というのが一般的な概念ですが、幽霊が自分の大切な人だったり、助けてくれる/助けを求めている存在だと認識できれば、怖さは和らぐのかもしれない、と最近よく思います。

他作品のネタバレを防ぐために、ここでは作品名を挙げませんが、序盤では幽霊は怖いものとして描かれ、中盤から終盤にかけて協力者や助けを求める存在として描かれる作品をいくつか観たことがあります。『ブラック・フォン』もそちら側の作品です。演出は充分怖いし、実際に幽霊が出てきたらチビるけど。

 

お気に入りのシーン ※順不同

ロビンと一緒に

グラバーに誘拐され地下室に閉じ込められてしまった主人公フィニー。被害に遭い亡くなった子供たちから電話がかかってきて脱出のヒントをくれます。そんな中、いろいろやったけど結局逃げられそうにないと絶望したところに、行方不明となっていた親友のロビンから電話が。やはり彼もグラバーの餌食になっていたのです。もう犯人を力づくで倒すしかない。ロビンはフィニーに戦い方を教えます。

ステップでかわして、受話器を振る。

この動作を二人で一緒にやるのですが、ここがなんともいいシーンでした。なんとなく『ベスト・キッド』を思い出させます。(ジャッキー・チェンのしか観たことないけど)

仲の良さが伝わる反面、ロビンはもうこの世にはおらず、またフィニーにはロビンの姿が見えていません。切ないな……

 

グウェンのメンタルが強すぎて

妹が本当にクール過ぎる。

盾となってくれていたロビンが行方不明となり、いじめっ子たちに追いかけ回され暴行を受けるフィニー。それを見つけたフィニーの妹グウェンは、いじめっ子たちに飛びかかるのですが、すごい勇気と気迫。上級生相手に殴りかかるなんて、なかなか出来ることではありません。

大切な人を守るために困難に立ち向かっていく人間の姿は、いつでも心打たれます。

 

そして、父親に暴力を振るわれている最中に反抗できるのもすごい。

まだ中身がたっぷり入っている酒瓶を手に、父親を脅します。

「次叩いたらこれを落とすから!」

「やってみろ、倍の強さで叩くぞ」

グウェンが本当に酒瓶を落とし、父親が狼狽する瞬間のシーンがとても好きでした。

 

気になったこと

なんで裸?

グラバーは捕まえた少年がミスをすることを望んでいます。地下室の鍵をかけ忘れたふりをしておいて、それを好機と見た少年が出てくるのを待ち構えているのです。

それはいいんだけど、なんで上半身裸なんだろう。お仕置き用のベルトを持って椅子にどっしりと腰かけている様子は滑稽というかなんというか。いやある意味怖いけども。そういうプレイなのかな。

 

あ、そっちなの?

グウェンの夢の力によって辿り着いた先は、被害に遭った子供たちが埋められている空き家でした。「ああ、お兄ちゃんを見つけるんじゃないんだ!?」ってなりました。いや全然いいんだけど。

電話や夢を通してヒントをくれていた少年たちの目的は恐らく、フィニーに「グラバーを倒してもらうこと」と、グウェンに「自分達を見つけてもらうこと」だったのだろうと思うので、うん。いいよ。

 

「予知夢」でいいのか?

宣伝ではグウェンのことを「予知夢を見る少女」と言っていますが、よくよく考えると「予知夢」って表現は合ってるのかしら。「予知夢」というのは、これから起こる未来が見える、つまり予知する夢のことだけど、グウェンの場合、事が起こってから関連する夢を見ているので、微妙に「予知夢」からはズレているような。

とはいえ、他に丁度いい言葉が思い当たるわけでもないし、グウェンが未来に見に行く景色を見ている、と捉えれば「予知」と言えなくもないような……?

まあどっちでもいいんですけどね。

 

心配事

グラバーを見事に打ち倒し、家族の元へと帰ることが出来たフィニー。ハッピーエンドの大団円、と思いたいところですが、結局フィニーは人殺しになってしまいました。正当防衛に含まれそうではあるけど、一線を越えた者になったことは確かなわけで。

また、学校で一目置かれる存在になったこと、父親から虐待を受けていることも不安の種に思えます。好ましくない方向へと目覚めないといいけれど。

 

といった感じで、『ブラック・フォン』を観た感想は以上です。

興味を持った方は、ぜひ劇場でお楽しみ下さい。